■ 本研究会の視点
BWAユビキタスネットワーク研究会(略称:BWAUNC)のゴールは、一企業だけでは成し遂げることのできない、壮大なスケールで描くユビキタスネットワークシステムを様々な分野の企業のリソースや視点を組み合わせて創り上げることです。最初のサービスとしては、定点に設置されたカメラ・センサによる情報提供サービスを検討しています。BWAUNCでは、検討にあたり、「技術的視点」、「事業的視点」、「社会的視点」、の3つの視点を基軸とし、定点カメラ・センササービスのあり方について考えています。
ユビキタスネットワークサービスを行っていくうえで必要な基軸技術は、主にネットワーク技術、情報処理技術、アプリケーション技術の3つに分類されます。
無線伝送、バックボーン・トラヒックなどで構成されるネットワーク技術。データ処理、画像処理、データセット、セキュリティなどで構成される情報処理技術。そして、カメラ、サイネージなどで構成されるアプリケーション技術です。これらの技術をどう活用していくかについて、本研究会は検討しています。
「事業的視点」からは、事業開発に向けた望ましい体制のあり方や、新しい技術に相応しいインフラのあり方の2点を中心に検討しており、上記の基軸技術をどうやってサービスにつなげていくかがキーとなります。
「社会的視点」からは、プライバシーや肖像権、公共性に関する検討は必須となります。これらのポイントは、現在最も注目が集まっており、社会的な関心が大きいからです。
プライバシーに関しては、日本では制度的にも、社会的にも明確な定義が共有されていませんが、先行事例となるいくつかのサービスがリリースされており、問題の顕在化がなされつつあります。
先行事例での経験から、このようなサービスを提供する上では、社会に対する積極的なコミュニケーションが求められることになると思われます。この種のサービスを社会的に受容していただくためには、広く社会にコミュニケーションを取っていく必要があります。
また、標準化に関する議論も重要になります。本研究会がインフラの共用化による共用サービスの実現を目指している事もあり、技術、運用ポリシー両面での標準化が必要となると想定しています。そして、できる限りオープン・スタンダードにする必要がある以上、規格などの標準化も大変重要な意味をもっています。
■ 先行事例の分析 Googleストリートビュー
概要: Googleストリートビュー(以下GSV)は米Google社が提供する道路から撮影した街頭風景写真の提供サービスです。特徴としては、上下左右360度の展望が可能であり、実際にweb上で撮影ルートを進むことができるなどがあります。
GSVサービスリリース後の主な反応
GSVに関しては現在も論議が続けられていますが、意見は大きく、肯定派である「便利」系意見と、諦観意見である「仕方ない」系意見、否定派である「プライバシー侵害」系意見の3つに分けられます。
楽観的な意見としては、「面白い。さすがGoogle。やっと始まったか」や「便利なものは受け入れられる」といったものがあげられます。諦観意見には「プラットフォームに文句を言っても仕方が無い」、「サービスは止められない」、「衛星写真やデジタル機器の普及を考えるといつか出てくる話。技術的必然」、「デジタル・ネット社会にプライバシーなんて存在しえない」などがあがっています。最後に、懸念意見は、「プライバシーをはじめ、法的課題が多すぎる」、「手続きが乱暴」、「仮に懸念表明するとしても法制度的に手段がなく(もしくはハードルが高く)対抗しづらい」、「海外で先行していたのに、なぜその議論を踏まえなかったのか」などがあります。
GSVに関して指摘されている懸念事項
GSVに対する懸念事項は、以下の3点に整理できます。
まず、データ取得に関して、「事前通告なく、勝手にデータをとられている」ということが挙げられています。同業他社は、撮影している事が分かるように配慮してデータを取得していますが、GSVの場合は画像がいつ誰によって撮られたのか分かりにくいと言われています。また、GSVのようなオプトアウト型は日本の個人情報・プライバシーに関するこれまでの習慣にそぐわないとする意見が多くあがっています。
次に、「目線が高すぎる」という意見は、GSV撮影車のカメラ設置位置が明らかに人の目線よりも高いため、塀の内側(私有地の敷地内)まで撮影されていることを懸念しています。私道に入って撮影している、という意見に関して、Google社は「公道からの撮影のみ」と表明していますが、実際には私道に入って撮影を行っているケースもあり、矛盾があるということが指摘されています。
最後に、「Googleの判断で撮影対象地域が決められている」、という指摘があります。撮影対象となっている地域の中でも、撮影されていない場所とされていない場所があり、その判断基準が分からないという意見です。
なぜ批判・非難の声があるのか
GSVのようなサービスは、上記の懸念事項から批判・非難の対象になりやすいですが、それには大きく分けて3つの理由があると考えられます。
まず、サービスの目的が不明確であるということが一つです。これはサービスの目的が明確な先行の類似サービスはあまり批判されていないということからも、ある程度妥当性のある理由と考えられます。例えば、街角の防犯カメラなど、設置の目的が明確であれば受容される余地も出てきますが、GSVの場合は、「誰がどう使うか分からない」と思わせてしまうのが不安を高めているのかもしれません。
次に、ユーザとのコミュニケーション不足、ということがあげられます。不都合な映像に対してはオプトアウトで対応すると表明されていますが、対応が不十分との批判がしばしば聞かれます。
3つ目は、GSVのサービスがあまねく人を巻き込んでいることです。GSVのようなサービスは実空間とネットの境界を越えたサービスです。例えば、携帯電話などのモバイル機器は便宜上とはいえ、ユーザにその接点があり、自己情報コントロールが(不完全ながらも)ある程度は実現していたのですが、GSVでは個人が情報のコントロールをすることが難しくなっていると言えます。
■ このようなサービスを行う場合の法制度面での整理
道路景観をユーザーに提供するサービスを法制度面から検討すると、総論的には、日本国内での法制度の整備が不足していることがわかります。
プライバシーに関しては、法整備が進んでおらず、場合によっては根拠を憲法第13条(個人の尊重)に求めざるを得ない場合もあり、あまり現実的ではありません。民法709条(不法行為による損害賠償)のよる損害賠償請求はありうる選択肢ですが、議論自体がそもそもプライバシーの定義とは何かという根本的なところに戻ってしまいます。
又、個人情報保護法はそもそも日本では「個人情報・個人データ」を対象にした一種の業法であり、GSV等のサービスは個人情報保護法の対象範囲から外れる可能性もあると考えられます。判例から見ても、プライバシー、肖像権に関する判例は揺れており、前提とする権利の解釈や定義も法律家によって様々であり、さまざまな抗弁が可能な状況にあります。
上記を踏まえると、ポイントは、誰が(主体)、何を(目的)、どのように(方法)取得しているか、という事になります。画像の「取得」が、その「目的」に適っているか、取得方法はそもそも目的に対して適切なのかどうか、を丁寧に論理付けていく事が必要になります。例えば、道路の交通状況を把握するという目的の為に画像を取得するのであれば、動画であることは合理性がありますが、車のナンバープレートや歩行者の顔、服装が判別できる解像度で撮影する必要はあまりありません。
各論的視点については、以下の図を参照してください:

※クリックすると拡大します。
■ BWAUNCで検討する領域
日本の企業文化では「法的に争うようではすでに負け」という考えが根付いています。特に通信キャリアの「社会的信頼感」は、このハードルをさらに高いものとします。このバックグラウンドがBWAUNCの審議会のそもそもの基本方針となっています。しかし、本当の課題は上記の法制度面の課題ではなく、情報の取得・利用に関する目的の問題であるため、目的が明確かどうか、その目的に社会性・合理性はあるかどうか、主体は明確かどうかということを検証する必要があります。また、法制度以前にユーザから「気持ち悪い、行儀が悪い」と思われないことが必要であり、そのためには、設計段階でのきめ細やかな配慮、明確な運用ポリシー、そして過不足のない技術的対応などが必要不可欠であると言えます。
検討事項としては、まずプライバシーポリシーの策定と、そのポリシーの維持・メンテナンス体制をどう構築するか、について、審議会を中心に議論しています。技術対応の検証は、技術そのものは部会で検討しますが、それが上記ポリシーに沿って運用されるかも検証します。そして社会とのコミュニケーションを取っていく為、どのようにエンドユーザや社会全体に情報を発信していきます。

